【セミナーレポート】「子どもと「いっしょに」考える、みんながほっとする社会のつくりかた」by 山口有紗先生

2021年 07月19日

7月18日(日)の16時からオンラインで開催された、「子どもと「いっしょに」考える、みんながほっとする社会のつくりかた」。

今回のゲストである山口有紗先生は、小児科専門医で、ふだんは世田谷の児童相談所などでも子どもたちと接していらっしゃる、子どもの心のスペシャリストです。先生には、私たちAETが作成したバリアフレンドリーBOOK「まちのまざるMAP」の監修をしていただきましたが、この冊子づくりのプロセスでも、インクルーシブやダイバーシティについて、みんなが「混ざる」社会についてどう考えたらいいのか、たくさんのことを教えていただきました。そこでお聞きした話や視点を、障害のある子たちに関わる大人たちで共有し、みんなでおしゃべりができたら、ということで今回の登壇をお願いしました。



画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: ad3feb0e0510f2f9063acde2ddb7d337.png

まず山口先生からの話題提供からスタート。
「子どもとその周囲が少ししんどいときにこそ、安心してつながることのできる社会」とはどういう社会なのか、という問題提起からお話をくださいました。SDGsの「ひとり、取り残さない(Leave no one behind)」という一番大事な言葉、子どもの権利条約の説明のあと、「子どもたちにとって等しく、平等に、差別なく」というのはどういう状態なのか、イラストを示されます。

<フェンスの絵>

壁ってなんだろう? その壁はどうしたら取り除けるのか?
壁を乗り越えて参加できるような補助をつけるという方法。壁の高さがそもそも人によって違うのではないかということに気づくこと。そしてそもそもの壁をなくすことはできないか。
こうしたいろいろな考えを示しつつ、「知る」ことが大事です、と山口先生は続けられます。その子どもの願いを知る。その子ども自身の因子(身体的な特徴や苦手なこと、得意なことなど)を知る。その子のまわりの因子(いっしょにいる家族のこと、お金のこと、どんな社会資源につながっているのか)を知る。そして参加する場の特徴(例えば野球観戦なら、どんなゲームで、どんな危険があるのか、トイレは近くにあるのかなど)をきちんと知ることが大事。そうしたことを踏まえて、なにが壁になっていて、それはどんな必要性があり、その中でどのような参加が可能なのかを考える、ことが必要ではないでしょうか、とのお話。そして「知る」ために、子どもの声をどうしたら深く聞くことができるのかも考える必要があること。わかりやすく、じっくり考えたいテーマを紹介してくださいました。

この話題提供を受けて、2つのグループに分かれてのおしゃべりの時間。
参加者は、ほぼ半分が障害のあるお子さんを持つ親、もう半分は障害のある子の支援に関わる立場の人たちでした。
最初のおしゃべりテーマは、「これまでどんな壁を感じたことがありますか?」という問いです。
障害のあるお子さんを持つ親御さんからは、電車の中でイヤな眼で見られたり、あるいは見ないふりをされたりといった経験のこと。
自分自身の壁に気づいたこと。配慮が必要なお子さんと話すときに壁をどう突破していくか。成長して大きくなってきた子どもの話の聞き方。壁のありかがわからない、という方。小学校に入る時の社会の壁、小1の壁のこと。そして社会に出る時の壁のこと。逆に壁が守ってくれることもあるのではないか、という意見もありました。

次のおしゃべりテーマは壁を感じない時のこと、「ホッとする瞬間」について。
支援者からは、呼吸が合う、通じ合う瞬間にホッとする瞬間があるというお話。

親御さんからは、「保育士さんのような第三者の方から、客観的に子どものいいところを知らせてもらった時にホッとした」というお話。「某テーマパークに行った時に、プロフェッショナルな対応をしてもらってホッとした」というお話。「保育園の同級生が「この子はこの子だからね」と接してくれたことにホッとした」というお話。そして「抱えていたことを人に話せた時に、ホッとして泣けた」というお話もありました。

最後に山口先生から、”障害や病気”という名前がついていると、「なにかしなくちゃ」と介入の気持ちが働きがちですが、その手前にある、「君のことを知りたいよ」、「いっしょに居るよ、見ているよ」ということをていねいにすることで、インクルーシブに近づく努力ができるのかなと考えているし、いつもそういうふうに要られたらと思っています、というコメントを頂きました。

1時間と少しのコンパクトなおしゃべり会でしたが、山口先生の絶妙な話題提供とお人柄もあって、多くの参加者の皆さんも、思いを話し、共有して、他の人の考えや見方を理解できた時間になったのではないでしょうか。参加者の皆さんからはこんな感想を頂きました。

「暖かな空気の中で、こうした体験の積み重ねが、一人一人の、そして社会のフェンスを取り除いていくことにつながると信じています」

「もっともっとよく子どもたちの声を聞いていきたいと思いました」

「(イベントの)タイトルを拝見した時は、難しい内容なのかな? と思いましたが、参加させていただいてとても良かったです。身構える前にちゃんと相手を見て知ろうとすることの大切さを気付かせていただきました。」

「普段から平等や合理的配慮などをしなければいけないと理解はしているものの、具体的にどうすればいいか深く考える機会はなかなか無かったので、貴重な機会となりました。ありがとうございました。」

「初めての参加でドキドキでしたが良い経験になりました。」

「自己都合で所々しか拝聴できませんでしたが、先生の穏やかな口調で、多すぎない言葉は心にスーッと入ってきました。他の参加者の方々もそうだったのではないかと思います。」

アートイートリートのオンラインおしゃべり会は、最後の方のコメントにあるように、まずは聞くだけの参加もアリです。思っていること、抱えていることを、すこしだけでも話してみると、すこしだけ心のわだかまりが小さくなるかもしれません。


だれかの心の内のことを聴いてみる。わたしの心の内を話してみて、聞いてもらう。そういう場が社会のいろいろな場所にふつうにあれば、「壁」は少しづつ小さくなっていくと私たちは考えています。これからもおしゃべり会を準備していきますので、お気軽にご参加ください。お待ちしています!

レポートに戻る