子どもの言葉の発達を促すには? 効果的な語りかけ方は?

2021年 11月17日

言語聴覚士•石上志保先生に聞きました!

長年、子どもたちの言語・コミュニケーションの発達支援に従事し、自らもダウン症のある子のお母さんである言語聴覚士・石上志保先生。そんな石上先生に、子どもが言葉を獲得する過程や言葉の発達の促し方について、2回にわたってお話を伺いしました。第2回は、言葉の発達の促し方や、発語に繋がりやすい効果的な語りかけ方などについてご紹介します。





石上志保(いしがみしほ)さん	
児童発達支援施設、地域の福祉センター等での小児、成人期のコミュニケーション支援の経験を経て、現在は都内総合病院の小児科ほか、地域のクリニックで言語聴覚療法に従事。ダウン症のある息子との生活経験を生かし、暮らしのなかでことばの力を育てる方法について検討を続けている。
『こどばを育てるオノマトペカード 』監修https://machitoco.com/onomatopoeiacard/

どうやって言葉を育てたらいいの?

前回のお話で、聞こえやコミュニケーションの様子に大きな問題がないのに、お子さんの言葉の発達がゆっくりな場合、考えられる主な原因は…

1:言葉を聞き取って記憶するのが苦手な場合

2:言葉と意味を結びつけるのが苦手な場合

3:言葉に注意を向けるのが苦手な場合

があることをお話しました。

今回は、「では、どうしたら言葉の発達を促せるのか?」というお話をしたいと思います。

上記の3つ場合の対応法を、それぞれ具体的に説明していきますね

1:言葉を聞き取って記憶するのが苦手な場合

とにかくはっきりゆっくり繰り返しわかりやすく聞かせることが大事です。親御さんにこうお話すると、「やっているんですけど効果がないんです…」というご相談をよくお受けします。もちろん親御さんたちもゆっくり伝えてくださっていると思います。

でも、申し訳ないんですけど、「理解できるスピード」と「マネできるスピード」とは違うところがあって…。大事なのは、お子さんが「マネのできるスピードと長さ」で話しかけることです。コツは、言葉をゆっくりと文節で区切ること。

例えば、ゆっくりと言っても「ご、は、ん、を、た、べ、る、よ」ではなく、「ごはんを・・・・・食べるよ」のように、ことばの間にゆっくり間をとります。こうすることで、お子さんが「ごはんを」という言葉も「食べるよ」という言葉も、ゆっくり音を処理し、同時に意味を理解できる時間が持てます。

2:言葉と意味を結びつけるのが苦手な場合

言葉と一緒に視覚的な情報(写真や絵、ジェスチャーなど)を見せてあげることが大事です。これは、普段のコミュニケーションにも使って徹底すると効果的です。

例えば、飛行機を見つけたお子さんが、そのことをお母さんに伝えたいけど、なんと言ったらいいのかわからないような場合、普段からジェスチャーを使い慣れていて「キーン」という手を広げるジェスチャーをすれば、親御さんは「もしかして・・・飛行機?」と返せるかもしれません。

ジェスチャーの一つの効用は、意思をを伝えやすいということもありますが、その時伝えたかった言葉をかわりに大人に言ってもらえる、という効用もあります。お子さんの「伝わった!」という喜びはもちろん、聞かせたかった言葉をお子さんにその場で聞かせることもできるわけです。

もう一つの効用は、サインを使うと大人の発話スピードが落ちることです。例えば、「ごしごし」と腕を洗うジェスチャーをしながら「お風呂」と言うと、手の動きに合わせて自然と発話スピードも落ちませんか? 2つの指示を伝える時も、「手洗ってから(手を洗うジェスチャー)、お部屋に入るよ(部屋に入るジェスチャー)」と言われると、両方の意味をゆっくり理解し、覚えやすくなります。

また、一日のスケジュールなど長い時間の予定を伝える時は、イラストで提示するのもおすすめです。わが家でもよくやっていたのですが、例えば「朝起きたら(起きるイラスト)→ご飯を食べて(ご飯を食べるイラスト)→電車に乗って(電車のイラスト)→公園に行って(公園のイラスト)→ご飯を食べて(ご飯を食べるイラスト)→また電車で帰るよ(電車のイラスト)」というふうに1日のスケジュールをイラストで見せてあげると、言葉でバーッと伝えるよりずっとわかりやすいはずです。イラストは、もう棒人間みたいな簡単なもので全然かまいませんので。

3:言葉に注意を向けるのが苦手な場合

お子さんが「自分も同じように言葉を使ってみよう!」と思えるようなコミュニケーションの糸口を作ることが大事です。その糸口の作り方で私たちがよく使うのは、その子が好きな遊びを見つけて、「もう1回」というアクションを引き出すことです。

例えば、「たかいたかい」が好きなら、ずっとやり続けるのではなく、例えば3回だけやって降ろして、もう1回やってほしそうなら、「もう1回?」と人差し指を立てながら聞きます。繰り返しているうちに、「もう一回」という言葉が聞こえるともう1回やってもらえることが徐々にわかってくると、自分から「…かい!」と言ってきたり、指で1を出したりするようになります。

他にも、クーゲルバーン(玉が道を転がるオモチャ)が好きなお子さんなら、「3、2、1…ゴー!」と言ってから玉を発射させる遊びを続けていると、この「ゴー」という音が聞こえると自分の好きなクーゲルバーンが発射するとわかってきます。そこで、「3、2、1…」と言ってから少し間を開け、なかなか「ゴー」と言わず玉を発射しないでいると、お子さんの方から「ごー」と言うようになることがあります。お子さんの好きな遊びの中からコミュニケーションの糸口を作っていくと、一緒に楽しめますね。

■オノマトペは聞き取りやすくマネしやすい

また、言葉の発達の初期の段階では、ジェスチャーだけでなくオノマトペを使うこともおすすめです。

オノマトペとは、「ざあざあ」「ごろごろ」など、身の回りの音や声、動きやものの状態などを音で表現したことばのこと。日本語には4000以上の「オノマトペ」表現があると言われています。

例えば「はさみで切るよ」というのは、「はさみ」と「切る」という2つの言葉を覚えなければ自分から言えるようになりませんが、オノマトペで「ちょきちょき」と言えばそれだけで伝えられます。

「ちょきちょき」など音の繰り返しや、音そのものを表現したものが多いオノマトペを使った語りかけは、音から意味や様子を想起しやすいという特徴もあるため、簡単で頭に残りやすくマネもしやすいのです。

また、私たちも日常生活で、人の気持ちや動作の様子などはもちろん、泣き声や物音など音そのもの、手触り、歯ざわり、見た目、味、匂いなどの感覚、人やモノの状態などを表現する時には、無意識に「オノマトペ」を使っていることも多いように思います。そんな「オノマトペ」の特性を最大限に活用し、子どもたちとことばの世界を広げ、親子のコミュニケーションを楽しんでほしいと思います。

2回にわたって、言葉の発達がゆっくりな原因と、言葉の発達の促し方についてお話してきましたが、最後にもう一つだけ。言葉の発達はものすごく長い道のりです。「数か月や1年ですぐになんとかなる」という問題ではない場合も多いので、この先のお子さんとのやりとりを楽しみに根気強く働きかけ、今できることをゆっくりと確実に続けてもらえればうれしいです。

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