なぜ、わが子は言葉の発達がゆっくりなの?その原因は?
2021年 11月12日
言語聴覚士•石上志保先生に聞きました!
長年、子どもたちの言語・コミュニケーションの発達支援に従事し、自らもダウン症のある子のお母さんである言語聴覚士・石上志保先生。そんな石上先生に、子どもが言葉を獲得する過程や言葉の発達の促し方について、2回にわたってお話を伺いしました。第1回は、「なぜ言葉の発達がゆっくりなのか?」原因についてご紹介します。
■言語聴覚士が確認する、3つのポイント
保護者の皆さんから「言葉が出ない」とか「コミュニケーションが取りにくい」という相談を受けた時、私たち言語聴覚士がまず確認するのは次の3点です。
1つ目は、聴力、そして、口や舌を使って声を出したり、発音を調節したりする力。
2つ目は、意思を伝えたり受け取ったりする人との関係、コミュニケーションの力。
3つ目は、認知の力。認知というのは周囲の世界を知る力のことで、簡単に言うと複数の事象を結びつけて考える力とも言えます。例えば、犬という言葉と犬そのものを結びつけたり、お母さんがお化粧をしはじめる姿を見て、「そろそろ出かけるのかな?」と想像できるようになったりする力のことです。
基本的に、この3つの力が整っているようなら、ことばを育てる基礎が育ってきていて、たとえ今発語がなくても、もう少し待っていれば言葉が出てくるかな、と考えます。
■注意のコントロールが苦手な子の場合
もし、この3つの力が整っているのになかなか言葉がでないという場合、大きな原因として考えられるものの1つに「注意のコントロール」の問題があります。
例えば、お子さんがアンパンマンを大好きで夢中になっている時に「アンパンマンだね~」と語りかけても、まるで声が聞こえなかったような反応をするなど。注意のコントロールが苦手なお子さんは、何かに夢中になっている時にはその他の情報が入りにくいことがあります。音声は視覚情報と違ってすぐに消えてしまうので、注意のコントロールが苦手なお子さんにとっては、言葉をキャッチするのが難しい場合があるのです。
■聞き取って、記憶して、マネする力があって、初めて発語に
もう1つ考えられる大きな原因は、「音を聞き取って記憶する力」の弱さです。
子どもが言葉を表出するまでには、「聞き取る」→「音を分析して、少しの間だけ記憶する」→「マネをする」という過程が必要です。日常でよく耳にする「音のかたまり(単語)」に気づくのには、先ほど言った認知の力も関係してきます。
例えば、「「わんわん」という音のかたまりとこの生き物には関係があるようだ」というふうに「音のかたまり」に気づいて、その「音のかたまり」を記憶してマネして再現する。これができてようやく発語の芽となります。
こうやって、子どもは聞き取った音をマネして言葉を獲得していくわけですが、でも、はじめて聞く音をマネするのって実はすごく難しいんですよ。
例えば、私たち大人だって、まったく知らない外国語でバーッと話されたら、それを正確に復唱するのは難しいですよね?
また、一般的に人が一瞬に記憶して再現できる音の数は、だいたい7プラスマイナス2くらいと言われています。その短期記憶は7、8歳がピークで、20歳くらいまで最高値をキープしたら、その後はだんだん低下していくと言われています。
よく、お子さんが「「ありがとう」と言わず「…とう」と言うんです」という相談を受けることがあるのですが、こういう場合、お子さんの頭の中では最初の「ありが」という音が消えてしまい、最後の「とう」という音が残っている状態ではないかと考えられます。それで、その残っている音をマネして表出しているわけです。
他にも、「りんご」を「ご」と言ったり、「ヨーグルト」を「っと」と言ったり。これも同じで、最初の音が消えてしまったので、頭の中に残っている音だけをマネしているんでしょうね。
■言われていることはわかっているのに、言葉がでないのはなぜ?
ところで、私たちが日本語を聞いて理解する時って、どういう風に脳が働いていると思いますか?
例えば、「ほうれん草」という言葉を聞いた時、私たちは「ほ・う・れ・ん・そ・う」という音の処理と「あの緑色の野菜だな」という意味の処理をほぼ同時にしています。
実は、この「2つの処理をほぼ同時にできる」ということがすごく大事なのです。これが、聞いた音の意味もわかるし、復唱もできるという状態です。
この2つの処理がほぼ同時にできない状態というのはどういうことか? というと…
一つは、音の処理が苦手で、こちらの言っていることはわかっているのにおしゃべりが出てこないというタイプのお子さんです。
どういう状態なのかというと…
「ほうれんそう」という音が耳に入った。
↓
すぐに「ほうれん草」の様子が頭に浮かんだけれど、
聞いた瞬間にことばは消えてしまい頭の中に音の情報が残っていない。
↓
言われたことはわかったけど、言葉で再現できない。
という状態なのです。
『となりのトトロ』でメイちゃんが「とうもろこし」を「とうもころし」、「おたまじゃくし」を「おじゃまたくし」と言っているのも、聞いた音を順番通りに記憶することができず、うまく再現できていない状態です。この状態と似ています。
■質問にうまく答えられないのは、なぜ?
もう一つは、音の処理はすぐできるけど意味の処理が苦手で、おしゃべりはしているけど質問に答えるのが苦手というタイプのお子さんです。このタイプのお子さんは、例えば、「ほうれんそう」と言われれば、聞き取ってマネすることはできます。でも、音の処理で頭がいっぱいになってしまい、音と意味を結びつける意味の処理まで追いつかず、「あれ? なんのことだっけ?」というふうになってしまうのです。
こうお話すると、「うちの子、記憶力は良のですが…?」と不思議そうにする親御さんも多いのですが、言葉を聞いてすぐにマネするときに使う記憶は、皆さんが想像される「過去の出来事や知識を記憶する」時に使われる長期記憶とは異なり、「ほんの少しの間、言葉を頭に置いておくごく短い時間だけの記憶の力」のことで、私たち大人でいえば、電話番号を聞いてそれを書きとる間の記憶のようなものです。で、言語の発達においては短期記憶がすごく大事なんです。
私たち大人も、外国の方に知らない言語でバーッと話されると、意味の処理が追い付かず、とりあえず聞き取れた音だけあわてて返したりすることってありますよね? それと同じような状態だと思うとわかりやすいと思います。
今回は、子どもが言葉を獲得する過程や、うまくおしゃべりができない原因についてお話しました。次回は、「では、そんな子どもたちにはどう話しかけたら聞き取りやすいのか? 言葉の発達を促すには?」というお話をしたいと思います。
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