【「静岡きょうだい会」代表・沖侑香里さんに聞きました②】

2022年 05月20日

いっしょに考えてみよう

「きょうだい児の気持ち」

第2回:「きょうだい」が抱える悩みに、親としてどう向き合う?

沖 侑香里(おき ゆかり)さん

病気や障害のある方の「きょうだい」のための自助グループ「静岡きょうだい会」代表。5歳下の妹さんが重症心身障害者で、その経験から「きょうだい」が抱えている思いや悩みや、将来への不安などを語り合う座談会、制度や福祉サービスを学び合う勉強会などを開催。「きょうだい」へのサポートを通じて、誰もが生きやすい社会を目指し活動をしている。

https://shizuoka-kyodai.amebaownd.com/

「きょうだい」が抱えやすい悩みは?

前回は、親御さんが「きょうだい」のことを考える時に、まず共有しておきたいことについてお話しました、今回は、「きょうだい」たちが抱えやすい気持ちについて、またその気持ちとの向き合い方についてお話していきたいと思います。

まず、「きょうだい」が抱えやすい気持ちにはこんな気持ちがあると言われています。

<「きょうだい」が抱えやすい気持ち>

何が起こったの?こわい。(不安・恐怖)

僕がお兄ちゃんの頭をたたいたから?(罪悪感)

いつもと違う、みんなと違う(困惑・恥ずかしさ)

妹ばっかりズルい(怒り・嫉妬)

ダレも私のことは見てくれない(寂しさ・孤立感)

僕は病気じゃないからもっとがんばらなきゃダメなんだ(プレッシャー)

私はいらない子なんだ(自己肯定感の低さ)

幼少期に抱えていた悩みでは、次のような声を聞くことも多いです。

<幼少期>

「親にもっと甘えたいのに甘えられない」

「周りの友だちの家族(きょうだい)との違いを感じる」

「自分自身も病気や障害のあるきょうだいのようになるのではないかという不安や恐れの気持ちを抱く」(上の子に障害がある場合)成長すると自分も同じようになるのでは?と感じることもある。

「自分の方ができることが増えて戸惑い他増える」(きょうだいが下の場合)逆転現象が起きる。

学校に通いだして、子どもの身の回りの社会が広がる学童期では、次のような悩みも多くなります。

<学齢期>

「障害者への差別や偏見を目の当たりにする辛さ」

「えらいね」「しっかりしてるね」のプレッシャー

家族やきょうだいの話をしにくい

からかわれる、いじめにあう

先生の配慮のなさに傷つく

怒られたり我慢するのはいつも自分

家で落ち着く時間がない、勉強に集中できない

家族での外出が制限される、留守番が多い

親にも相談できない、心配かけたくない

親の愚痴を聞く、親のメンタルサポート的役割を担う

自分のことを見てもらえてないのではないかという寂しさ

また、良かれと思って周囲がかけた声が、「きょうだい」の負担になってしまう場合も少なくありません。

<「きょうだい」の負担になりやすい言葉>

「○○くん(障害のある子)の面倒みてえらいね」

「○○ちゃん(障害のある子)の分までがんばってね」

「お母さんを助けてあげてね」

「しっかりしたお姉ちゃん(=「きょうだい」)がいて将来安心ね」

といった周囲から掛けられる言葉もありますし、勇気を振り絞ってこれまで抱いてきた想いや正直な気持ちを打ち明けた際に、このような言葉を返されることもあります。

「もっと大変な家もある、うちは恵まれている方なんだから。」

「もう終わったことでしょう?」(ある程度年齢を重ねた後に打ち明けた時)

「好きで障害を持って生まれてきたわけではないのだから。一番大変なのは〇〇(障害のある子)だから。」

言っている大人に悪気はないと思うのですが、大人が正論を振りかざしてしまうと、そこに太刀打ちできない子どもの心があることもしっかり理解していきたいと思います。

気持ちは、行動や言葉で表さないときちんと伝わらない

「きょうだい」が悩みを抱えている一方で、親御さんたちも「きょうだい」の子育てについて悩みを抱えていることがあります。実際、親御さんからよく相談されることではこんな悩みが多いです。

「「きょうだい」にもっと目を向けてあげたい。もっと手をかけてあげたいけれど、時間と心の余裕がない。どうしたらいいの?」

これに対して私がお答えするのは、まずは、ほんのちょっとしたことでいいということです。例えば、買い物の時に「きょうだい」とだけの時間を作ったり、一日一回でもいいから「きょうだい」の名前をちゃんと目を見て呼んであげたり。これは、けっこうハッとされる親御さんが多いです。

大事なのは、「あなたのことが大好き。あなたのことを大切に想っているよ」ということがしっかり伝わるコミュニケーションをとることです。お子さんも親御さんの状況はわかってはいますが、親御さんの気持ちは行動や言葉でちゃんと表してくれないと伝わりません。「もう愛情駄々洩れ!?」くらいに伝えていいと思います。

暴言は最大限のSOS。まずはしっかり受け止めて

他に、親御さんからはこんなご相談も多いです。

「「きょうだい」が障害のあるきょうだいを嫌がったり避けたりして困っている。親としてどうしたらいいの?」

「きょうだい」の中には、「こんな妹いなければよかった」とか「お兄ちゃんと出かけるのもう嫌だ!」など、そんな言葉を言ってしまうこともあると思います。そんな言葉を聞くと、親御さんは「なんでそんなこというの!?」と戸惑ったり、怒ってしまいたい気持ちも出てくると思うのですが、まずは、「きょうだい」の最大限のSOSだと思って受け止める必要があります。その上で、その子がなぜそう思ったのか、感じていることを聞く姿勢が大事です。言葉の背景に目を向けてくれる誰かがいるかいないかで、その子の先の人生は変わってくると思うのです。

障害のことを伝えるのに最適なタイミングは?

障害や病気の伝え方に悩んでいる親御さんの声も多く聞きます。

「「きょうだい」に障害のあるきょうだいのことをどうやって伝えたらいいの? その方法や時期は?」

これについては、ポイントが2つあります。

1つは、小学生になるタイミングです。理由は、お子さんが友達との会話の中で家族のことを話すことが増えるからです。その時に、お子さんが友達にある程度伝えられるように、病名や症状、状態といった事実を伝えておくとよいと思います。その事実を知った上で、友達にどこまで話すかはまた別の話。まずは、「どんな病気で治るのか治らないのか」とか「こういうことができて、こういうことはできない」という事実だけを伝えることが「きょうだい」にとって大切な情報になるはずです。

また、どこまで詳細を話すかというのは難しい問題ですので、病院や療育の先生に相談したり、親御さんと「きょうだい」とで「どうやってお友達に伝えようか?」などと話し合ったらいいのではないでしょうか。そんな話し合いの機会が、「きょうだい」にとっても親御さんからの愛情が伝わる時間にもなると思います。

もう1つは、思春期のタイミングです。理由は、「きょうだい」が自分の将来のことを考え始めるため時期になるからです。伝え方は、「〇〇が学校を卒業したらこういう施設に通うよ」とか「こういう生活になる予定だよ」とか「もしかしたら今後こういうことを頼るかもしれないけど、こういうことは気にしなくていいからね」というふうに、今後について現状考えている将来のプランを伝えたり、家族で話し合ったりするといいと思います。

社会全体で「きょうだい」のことを支えていきたい

それでも、なかなかうまくいかない時もあると思います。そんな時は、家族だけで抱え込まないで、周囲に頼りながらやっていってほしいと思います。「きょうだい」を支える活動には、子ども対象では支援団体や病院、療育センターなど施設内での取り組みが、大人対象ではピアサポートによる取り組みなどもあります。「きょうだい」の問題は個人や家族だけの問題ではなく、社会の理解や資源不足から生じるものであり、社会全体の課題としてとらえていく必要がある、と私は思っています。

大切なことは、障害があってもなくても、子どもが子どもらしく、それぞれがその人らしく生きることです。そのために、私たち社会全体で「きょうだい」のことを支えていけたら……と思って、日々活動をしているところです。

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