【岸田奈美さんインタビュー】下半身麻痺のお母さんとダウン症の弟さんとの日々を 綴った記事が「note」で人気の 作家・岸田奈美さんに聞きました!

2021年 09月16日

障害って不幸ですか?

きょうだい児として思うこと

障害がある子のお母さんに伝えたいこと

ユーモラスな文章で人気の作家、岸田奈美さん。中でも、下半身麻痺のお母さんやダウン症の弟さんとの日々を綴った記事は「note」で多くの人たちの共感を呼びました。そんな岸田さんに、障害の有無にかかわらず楽しく生きるためのヒントをお伺いしました。


岸田奈美(きしだなみ)さん
1991年生まれ、兵庫県神戸市出身。関西学院大学人間福祉学社会起業学科卒業。「バリアをバリューにする」株式会社ミライロで広報部長をつとめたのち、作家として独立。著書に「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(小学館)。「もうあかんわ日記」(ライツ社)。
Offical WEB :https://kishidanami.com/
note :http;//note.kishidanami.com/

障害って不幸ですか?

弟はめちゃくちゃ楽しそうで全然困ってないんですよ

辛いのは、お母さんが他の子とわが子を比べてしてしまう時だと思います。

■ダウン症の弟は全然困っていない

これ、人によっていろいろ事情が違うと思うので一概には言えませんが、わが家の場合に限って私の本音を言わせていただくと、ダウン症の人って実はほとんど困ってないんじゃないかな? と思っているんですよ。もちろん重い合併症などがある場合はぜんぜん話が違ってくると思いますが。というのも、私の弟はめちゃくちゃ楽しそうで全然困ってないんですよ。もし困っていることがあったとすれば、彼はお風呂が好きなんですけど、最近まで大浴場のロッカーの仕組みがわからなくて一人でお風呂に入れなかったということだけ。本当それくらいなんです。

■辛かったのは、比べてしまっていたお母さん自身

でも、お母さんは一時期辛かったらしいです。何が一番辛かったかっていうと、競争があるところに行った時だと。保育園で健常の子たちとの差が見えてしまったり、ダウン症の子のコミュニティでお母さん同士が「うちの子、これだけ話せるようになったよ」とか「うちの子はこの子よりマシだ」と内心競い合ったりしていて、それが辛かった、と。

で、ある時あるお寺が経営している保育園に弟を連れて言ったら、そこは障害とかまったく関係なくみんな同じように扱って、困っているところだけ手伝ってくれたそうで。弟がすごく楽しそうにしている姿を見て、お母さんは「ただ自分が他の子と比べて辛くなっていただけだった。この子が楽しければそれでいい」と気づいたようです。
もう比べることはしない。もし他の人から比べられてこの子が辛い思いをしていたら私が守ってあげよう――そうと決めてからは、気持ちがまったく変わったそうです。

■愛せる距離を探る

私、人を愛するというのは、愛せる距離を探ることだと思うんです。例えば、娘を愛すか愛さないかじゃなくて、この娘のことを一番愛おしく思える距離ってどこなんだ? というふうに。

まず、私は、人生は自分が幸せにいるためのものだと思っているので、家族とか責任とかに引っ張られるんじゃなくて、まず自分がどういう状態になったら一番心地いいかっていうのを大事にしていて。親子で、特に日常生活でケアが必要な相手だと、近くにいないとダメって思ってる人多いと思うんですけど、一緒にいればいるほど愛を注げば注ぐほど、嫌いになっちゃう時もあると思うんですよ。

■押しつける、ではなく、歩み寄る

うちのお母さんも任せられるところはむっちゃ人に任せてましたよ。ただ、これって押しつけるのとは違って歩み寄ることだと思うんです。お母さんは、弟に困った時に人に「困っている」と自分で言える子であってほしいと、とにかく「こんにちは、ありがとう、ごめんなさい」の3つだけは小学校入学前に弟にめっちゃ教えたんですよ。

「ありがとう」って言われたら、みんなうれしいじゃないですか。迷惑かけないとかじゃなくて、助けを求めて、助けて「ありがとう」って言われたら、それだけでうれしいですよね。

障害がある子のお母さんたちが「他人や社会に迷惑かけちゃいけない」って思う気持ちもすごくよくわかるんですけど、私は「なぜ迷惑をかけているって決めつけるのなの?」って思っていて。私はよく弟にお金を渡して買い物に行ってもらってたんですけど、お店の人が困っている弟をすごく助けてくれたんです。「自分の好意を受け取ってもらってうれしかった」って。

世の中って、困っている人を助けて喜ぶ人もむっちゃいるんですよ。だから、私は「迷惑」って決めつけること

がそもそも合ってないなって思っているんです。

ダウン症の弟さんのきょうだい児として思うこと

お母さんは、「弟の面倒はみなくていい」「私は私で好きに生きて」と。

いつでも手放していいという中で、一緒にいて何もマイナス要素がなくむしろ楽しかった。だから、私は弟と一緒にいることを選んだのだと思います。

■どうしたら障害のあるきょうだいのこと好きになれる?

よく「どうしても障害のあるきょうだいを好きになれない。どうしたら奈美さんみたいに好きになれますか?」って聞かれるんですけど。そういう人の話をよーく聞いていると、親から「きょうだいの面倒を見なさい」とか「うちの子には障害あるから、あんただけはしっかりしなさいよ」などと言われていたり、お母さんの愚痴を聞かされて育った人がめっちゃ多いんですよ。

本当は自分がお母さんに一番に愛されたかったのに、「きょうだいに障害があるからそっちを優先させないと」と、辛いことも「辛い」って言えずに生きてきたんじゃないかな、と。だから、それは辛いよなって思うんです。

■弟の面倒はみなくていい。奈美ちゃんは好きに生きて

私は小さい頃からお母さんに「弟の面倒みなくていい」って言われ続けてきたんですよ。「障害があるから弟を助けなくちゃいけない」とか「弟の面倒を見なくちゃいけない」とかじゃなくて、その前の段階に私は私で。お母さんは私に本当に愛を注いでくれたんです。

友達に「弟に障害があるってこと、あんまり周りに言わない方がいいよ。結婚できなくなるから」と言われたこともあるんですけど、よく理解できなくてお母さんに聞いたら、「弟のことは気にしなくていい。奈美ちゃんの幸せがママの幸せなんだから好きに生きて」と。

後、お母さんはあえて、私と弟を一緒に行動させなかった時期があるんですよ。登校班は6年間別々で、それは先生の判断もあったのだけど、「お姉ちゃんがいると弟くんはお姉ちゃんいることに安心しちゃうし、お姉ちゃんも多分周りに気を遣っちゃうだろうから」と、周りが「この2人なら大丈夫」と信じて離してくれたらしいんです。本当に信じることが全部だったという気がします。

■一緒にいて心地よい相手

いつでも手放していいという中で、でも、いろいろ考えると、弟と一緒だとむちゃ楽しかったんですよ。私よりも気がきくし、私よりもきれい好きで服とか全部たたんでくれるし、弟といた方が街を歩いていてもむっちゃ声かけてもらえるし、行きつけのコンビニでもサービスされたりするし(笑)。…って、もちろんそれだけで一緒にいるわけじゃないですけど、弟と一緒にいても何もマイナス要素がないんですよ。

後、弟は全然おしゃべりしないんですよ。旅行とかしても一切しゃべんない。でも、私もずっとしゃべっていたくないタイプだからちょうどいいんです。大人になっておしゃべりしなくても間が持って心地よい人って、あんまりいないから貴重ですよね。

だから、いろいろ総合的に考えた結果、私は弟といることを選んだと思います。こう考えていると、障害あるないってあんまり関係ないんですよね。

障害がある子のお母さんたちに伝えたいこと

子どもに障害があるお母さんで楽しく生きようとしている人って、役に立つものばかり見ようとせず、違う視点をくれる。

今の日本にめちゃくちゃ必要な人だと思うんです。

親が自分のために我慢したら悲しい

子どもに障害があると、お母さんは「この子のために我慢しなくちゃいけない」とか思うかもしれないですけど、私が子ども目線で思うのは、私のために親が我慢してたらめっちゃ辛いということ。しかも、「私は頼んでないのに、なんでお母さん勝手に不幸になってるの?」って。だから、お母さんはまずは自分のことを大事にしてほしいと思っています。

私、辛いことからは逃げまくっていいと思うんです。うちの弟は、ここだっていう場所に巡りあうまで作業所を4回も変えて探し続けましたから。

後、受け入れるには時間も必要だと思っていて。「いつか明るく捉えられるようになりたい」っていう意思さえもっていれば、時間が経てば絶対どこかで「ああ、こういうことだったんだ」って思える日がくるので無理しなくていいと思います。

■不幸を探そうとしない

周囲にもうまく助けを求めた方がいいと思っているんですけど、その時に、いかに自分が不幸で困っているかということを当たり前に言い過ぎないことが大事だと思っていて。

これは糸井重里さんに言われてギクッとしたんですけど、私がバズったのは不幸なことを健気に面白く書いてるからだ、と。糸井さんに「最近、奈美ちゃん、日常に不幸とか悲しさを探そうとしてない? 確かに「寂しい、悲しい、辛い」を言ったら最初は助けてもらえるけど、人の気を引くためにどんどん辛いこと悲しいことを探そうとしていたら、だんだん助けてもらえなくなっちゃうし、そういうのはみんな長くは見てられないよ。本当に幸せになりたかったら、幸せなことに目を向けて祈っていくのがいいよ」って言われたんです。

だから、最近は子ども向けにハッピーな児童書にもチャレンジしています。不幸なところだけに目を向けないで、辛い中でも楽しかったことや面白かったことを言葉にして伝えるようにしたら、助けてくれる方もそれを増やす手伝いをしたいって思えるんじゃないかな、って。

■お母さんたちは、違う価値観にいち早く気づいている

子どもに障害があるお母さんで楽しく生きようとしている人って、今の日本にめちゃくちゃ必要だと思うんです。障害者は生産性がないとか言う人もいるけど、確かに社会的にみたら、弟むちゃくちゃ生産性ないかもしれないけど、でも、遅い、しゃべれないっていう人より苦手なことがあるからこそ、世の中を埋めてる楽しさや幸せもあると思っていて。役に立つものばかり見ようとしていると、世の中がどんどん荒んでいくような気がするんですよね。

お母さんって、そこの価値にいち早く気づいている人だと思うんです。みんなが苦しいと思っていることに違う視点をくれる人なんじゃないかな。

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